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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1418号 判決 1981年2月26日

控訴人

石原高造

被控訴人

小林今朝男

右訴訟代理人

酒井昌男

大橋秀雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決三枚目裏七行目の「許された。」を「許され、その地上に本件建物を建築した。」と、四枚目裏二行目の「1の(四)」を「1の(三)」とそれぞれ訂正し、五枚目裏七行目の「一ないし一〇」の次に「(右はいずれも昭和五四年五月二〇日に本件建物及び本件自動車車体の状況を撮影した写真である。)」と、六枚目表三行目の「甲号各証」の前に「甲第七号証の一ないし一〇が被控訴人の説明する趣旨の写真であることを認め、その余の」とそれぞれ加える。

(控訴人の主張)

1  控訴人の本件土地に関する転借権の取得原因は、次のとおりである。即ち、土屋信一を申立人、控訴人を相手方とする甲府簡易裁判所昭和二九年(ユ)第三七号土地建物明渡調停事件において、昭和二九年一〇月一三日、当事者間に、本件土地と地上建物を賃貸借する旨の合意が成立し、右合意に基づき、控訴人は土屋に対して月額五〇〇円の賃料を支払つてきたものである。

2  控訴人は、前記調停の成立によつて、本件土地の賃借人となり、その地上建物が火災によつて焼失した後、土屋信一の承諾のもとに本件建物を新築し、同人の死亡後その遺族に対して土地代金を提供したが、本人死亡との理由で受領を拒絶されたため、相続人からの請求を待つてその支払をする所存であつたが、生活に追われ、その支払をしないまま現在に至つた。右のとおりであるが、控訴人は、昭和三四年六月から昭和四四年六月まで一〇年間、継続して本件土地の占有をしてきたから、時効により本件土地の所有権を取得した。

3  被控訴人は、不動産業者であつて、本件土地上に控訴人名義の所有権保存登記のなされている本件建物のあることを知りながら、敢えて本件土地を買受けて、終戦以来同所で生業(パン粉製造販売業)を営み続けしかも既に老境に達し加えて傷害の後遺症に悩む控訴人に対し、本件土地の明渡を求めるものであるから、右は権利の濫用である。

(被控訴人の主張)

控訴人の前記主張事実中、その主張のような調停の成立したことは知らない。その余は争う。

(証拠関係)<省略>

理由

当審も、被控訴人の本訴請求は、これを正当として認容すべきものと判断するが、その理由については、左に付加、訂正するほか、原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。当審における新たな証拠調の結果によつても、引用にかかる原審の認定判断を左右することはできない。

1原判決六枚目表八行目の「を併わせると」を「に弁論の全趣旨を総合すると」と改め、同九行目の「本件土地」を「本件土地及びこれに隣接する甲府市相生二丁目三二四番二、同番三の三筆の土地」と改め、同裏三行目の「右売買価額と」及び同四行目の「六」を削り、八枚目表四行目の「第七号証の一ないし一〇」の前に「被控訴人の説明する趣旨の写真であることに争いのない」と加える。

2控訴人は、甲府簡易裁判所昭和二九年(ユ)第三七号土地建物明渡調停事件において、昭和二九年一〇月一三日土屋信一と控訴人間に本件土地と地上建物を賃貸借する旨の合意が成立した旨主張するが、右主張事実中本件土地につき賃貸借の成立した事実を認めるに足る証拠はなく、かえつて、<証拠>によれば、控訴人が土屋に対し、昭和三二年一月頃から昭和三四年五月に本件土地上の建物(居宅部分)が焼失するまで毎月五〇〇円を家賃として支払つてきたことが認められるから、右によれば、控訴人は土屋から右地上建物のみを賃借したものであることが窺われるのである。よつて、右主張は採用することができない。

3  次に、控訴人は、控訴人において昭和三四年六月から一〇年間本件土地の占有を継続してきたから、時効により該土地の所有権を取得した旨主張するが、仮に控訴人がその主張のとおり本件土地の占有を継続していたとしても、一〇年間の占有の継続によつて不動産所有権を時効取得するためには、所有の意思を以て平穏かつ公然にこれを占有し、しかもその占有の始め善意にして無過失であることを要するところ(民法一六二条二項参照)、前説示(原判決理由)のとおり、控訴人は、本件土地を土屋からの使用貸借により占有してきたのであつて、控訴人において所有の意思を以て平穏かつ公然に本件土地を占有し、しかもその占有の始め善意にして無過失であつたことについては他に何ら主張立証がないから、前記所有権の時効取得の主張は到底採用することができない。

4  更に、控訴人は、本件土地の明渡請求は権利の濫用である旨主張する。しかし、<証拠>を総合すると、被控訴人は建設業兼不動産業を営む者であつて、本件土地及びこれに隣接する前記三二四番二、同番三の土地上に賃貸建物を建設する目的で、昭和五四年一月右三筆の土地を代金七〇〇〇万円で買受けたものであつて、右売買代金額は不相当に低廉なものでなかつたこと、右買受当時、本件土地の所有者(売主)跡部幾三が、その地上の本件建物についても所有権を主張して、該建物を占有使用中の控訴人を相手どつて、甲府簡易裁判所にその明渡を訴求していた(同庁昭和五三年(ハ)第二〇号家屋明渡等請求事件)こと(もつとも、右訴訟事件においては、同月六月に至り、本件建物の所有権は跡部には存しないとの理由により、請求棄却の判決が言渡され、該判決が確定した。)、従つて、本件土地の売主跡部は、前記売買当時本件建物は、自己の所有であると考えていたのであり、又本件土地の買主である被控訴人も、本件建物は跡部において控訴人からの明渡を得てこれを収去する筈であるから、本件土地は更地同然であると考えて、これを買い受けたものであることが認められ、右の各事実によれば、被控訴人において殊更に控訴人を害する意図を以て本件明渡請求に及んだものということはできない。更に、被控訴人の説明する趣旨の写真であることに争いのない甲第七号証の一ないし一〇、控訴本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は、永らく妻と共に本件建物に居住して零細なパン粉製造販売業を営んでいる者であるが、本件建物はもともと粗末な造りであるうえ、かなり老朽化し、かつ不潔であつて、食品の製造加工の用に適するとは認め難いこと、控訴人は、被控訴人からの本件建物収去土地明渡の交渉にも誠実に応待せず(当審における和解期日において被控訴人から土地明渡請求に応じてくれるならば、立退料として五〇〇万円を支払う旨提案されたのに頑なにこれを拒否し、遂に和解が成立するに至らなかつたことは、記録上明らかである。)、又本件建物に隣接して本件土地上の所在していた店舗部分の建物が跡部によつて取り壊され、その敷地部分が更地となるや、その地上に朽廃しかつ車輪を取り外して自動車として全く機能しない本件自動車車体(原判決物件目録三記載の物件)を置き、該土地を占拠し現在に至つていることが認められる。以上の諸事情を総合勘案すれば、本件土地明渡によつて、同所を生活の本拠として生業を営みしかも既に老境に達し傷害の後遺症に悩む控訴人が多大の打撃を受けるとしても、本件土地明渡の請求が直ちに権利の濫用にあたるということはできない。よつて、権利濫用の抗弁も採用することはできない。

以上の次第で、被控訴人の本訴請求は、これを正当として認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(杉田洋一 中村修三 松岡登)

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